3 金木 正

2016年04月10日
武内さん、なんで早く連絡くれないんです?

僕待ってましたよ、ホントですよ約束したじゃないですか。

あれ?違ったかな、僕の勘違いだったらすみません。

正の奴はいつでもこれや。。

人の話聞く気はほとんどないのや。

自分が言いたい事をまず先に喋る。

唯一違うときがあるんや。

それは金儲けの話の時だけ。

コロッと変わりよるから笑えるが、油断ならんこいつは役者やねん。

しかも悪役専門のな。

相変わらず、女をソープにとか新しいオンラインカジノがどうとか喋り続けとる。。

しばらく適当にそうか、言うて。

声もやたらでかいんや、携帯を耳から放しておいたわそれでも十分聞こえるからな。

こいつは、相手が聞いてようが聞いていまいが関係あらへん。

そか、いう返事も不要なくらいなんや。

5分ほどたった頃やろか、正が武内さん聞いてますか?と聞こえたから。

やっとこっちの番や。

ほんま疲れる奴や。

いやこれから関東で銭儲けやねん。

そう言ったとたん、急にヘラヘラ口調から真剣な口調にガラリや。

そうなんですか、詳しく聞かせていただけませんかね?

僕もシノギがきつくて困ってるんですよ。。

しかし・・・こいつはほんま嘘吐きやな。

こっちかて少しは情報持ってるちゅーのにな。

わしの本業、探偵やで。

正が箱にパソコン設置して、オンラインカジノで荒稼ぎしてるのは随分前から知ってるんや。

人権費も、ほぼかからんし美味しいやろな。

金ある奴ほどないふりする事が多いんや。

わしの生きとる世界の奴は特にそうや。

なにもかも知ってるわしからしたら、苦笑いするしかあらへん。

正が、で桁はどれくらいですと来た。

桁いうのは額や、2か3やな言うたった。

1が百万や、あとは言わんでもわかるやろ?

億ですか!?

なんですそれ、さすが武内さんですね!

僕はずっとずっと前から、兄貴分になってもらいたいとずっと思ってましたよ。

間違いなく延び筋だと確信してましたから、ハイ!

こいつ・・・延び筋とかわし極道やないで。

ほんま頭痛くなるわ。

正はまだ喋り続けよる、もちろん僕のアガリも武内さんにバンバン上げますんで。

お願いしますよ。

僕にもそのヤマ踏ませてくださいよ。

これや、この言葉をわしは待っとった。

すかさず答えた、ええけどな。

今度はこっちがまくしたてる番や!

恭おるやろ、あいつわしが今預かっとるんや。

奴の借り帳消しならええで、言うたった。

数瞬の間をおいて。

一言、そうだったんですねと来た。

でもですね、恭の借り膨らんでまして200はあるんですよね。

こいつ、ほんまに腐れ外道や。。

てめえで薬覚えさしておいて、それで骨の髄までしゃぶるんやからな。

恭は元は正の闇カジノのディラーしとったんや。

負けりゃ、金が入らんシビアな世界でがんばっていたちゅうーのに。

言うな、わしかて無条件でとは言う気はないわ。

わかっとるやろ?難波博徒 武内家やで。

お前もそれでしのいでるんや、ひとつ勝負といかへんか?

正が口挟む間を与えずに言い切った。

ほお・・・。

面白そうですね、そりゃ。

わしにクソなすりつけた言うたら、正の株も上がるからな。

しかしこいつ、急にドスが聞いた声に変わりやがって。

奴もリスクはわかっとる。

どうでるか。。。

わしが煙草に火を点けようとした時。

答えが返ってきた。

わかりました。

もし武内さんが勝ったなら、恭とはもう他人です。

でも僕がもし勝ったら、恭の借りなんてどうでもいいですから。

代わりに、兄貴分になって頂けるならお受けしますよ。

そう来ると思っとったわ。

正に足らんもんは、金や女やあらへん。

金の亡者でド腐れのチンピラや思われてるところやねん。

ほんまもんの厄介者やから、どこの組も相手せんのや。

面子の世界やしな。

だからこそ、正はそれを一番に欲しがっとる。

わしはわかったと一言。

これできっちりと決まったわ。

正の声が聞こえる。

おい、今井。

宝生に電話しろ、え?じゃねえんだよ馬鹿野郎!

俺がしろっていったら、はいでいいんだよ!

ぶっこむぞコラ!

今井の、正さんすみませんという声が聞こえる。

正が戻ってきたわ。

それじゃ段取りはどういたしますか?

明日じゃ、わしかてはよ関東行かないかん。

お前も、ヤマふみたいんやろが?だったら即やろちがうか?

そう言うと、わかりました。

明日、こちらに着きましたらご連絡ください。

迎えに伺いますんで。

わしがほっと一息、煙草に火を点けると。

正の下卑た笑いがかすかに聞こえた。

最高の相手用意しますんで。

それでは失礼致します。

それで奴との電話は終わった。

ちらりと、恭を見ると。

妙に神妙な顔しとる。

なんやお前どうした?と聞くと。

宝生さんですか・・・

手強いですよ・・・

そんな事はわかっとるちゅーに、正が勝負かけてくるディラーやで、といい終わらぬうちに。

女なんですよ。

は?

わしも驚いて間抜けな声だしてもうた。

宝生理沙、弟さんがでかい借りつくってしまいまして。そのために正さんところで飼い殺しにされてる方です・・・

勝負する相手の情報は重要や、わしは恭に詳しく聞いた。

聞かん方がよかったわ。

後の祭りやけれど・・・

理沙いう女は、弟がさらに下手うったせいでソープにも沈められる言う事やった。

まだ沈められてはいないみたいや、けれどこの勝負で負けたら一生飼い殺しやろな・・・

やりにくくなったと同時に、正だけはきっちり型にはめたろうという複雑な感情がわしに渦巻いた。

けれどな、いい考えが浮かんだで。

わしは探偵や。

面白い事になるでこれは。

恭の心配そうな顔見ながら、言うたった安心せいや。

よしゃ!前祝や一杯行くで!

武内さん、まだ昼前ですよ。

なに言うてんのや、ここどこや?

西成やで、朝から一杯が粋な街やんけアホ 笑

恭も、そうっすねと笑った。

うん、いい笑顔や。

美味い酒になりそうや。


2 旅立ちの日

2016年03月10日
わしが関東に行くんはしっかりとした理由があるが。

今はまだ、それは話したくないんや。

ちょっと色気のある話や、銭だけの問題ちゃうで。

しかし驚いたわ。

昨日やけれど、酔っ払って恭に言うたんや。

お前、本気やったら頭まるめてこい。

その女みたいに長い髪うっとおしいねん。

今時流行らんぞ。

てな具合にな。

渋い顔しとったから、そんな程度の覚悟かいなと思ったんやが。

今朝迎えに来た恭は・・・

ボウズやったわ。

笑えるかと思っとったけれど。

なんちゅーか、シリアスなもんやな。

そういう覚悟は、冗談みたいな流れの話でも。

いきなり空気変えるからな。

不良とのやりとりにおいてもそうやで。

いくらヘラヘラしとっても、言葉一つでガラリや。

くそ、面倒なこと思い出したわ。

正や。。

あいつと話つけんことには。

関東にはいかれへんで。

恭に、お前ほんまに頭まるめてアホちゃうんか?言いながら

なんすかそれ・・・と苦笑いする奴の頭なでたった。

頭丸めて、どうこうなんぞ下らん話や。

けどな、お前の心は受け取った。

わしも難波博徒、いやひとりの男として。

きっちりそれに答えたる。

銭銭銭の、下衆ばかりの世界やけれど。

だからこそや。

わしが、わからしたるねん。

恭に電話貸せ言うた。

竹さん、どこへ?言うから。

正や、あいつとけじめつけるんじゃと。

恭は真剣な表情でわしの目を見て。

お願い致しますと頭下げたわ。

こいつもそこまでアホやない、自分じゃどうもならんことわかっとる。

遠まわしにゴチャ言う奴も多いけれど。

そこは違う、それだけがいいところやな。

一回目のコールで、すぐに電話は繋がった。

ありがとうございます!ヤマシロフードプランニングです。

若い男が電話に出た。

お忙しいところすんませんが、金木さんはいてますか?

金木言うのは正の事やで。

一瞬の間のあと、礼儀正しかったのが嘘やとわかったわ。

低い声で、しかしはっきりと。

誰だてめえ?と一言。

それからは黙ったままや。

こいつは正の商売ようしっとるようや。

だいたい、普通の会社がワンコで電話繋がるか?ちゅー話やな。

難波の武内言うてくれ、と答えると。

アナウンスに切り替わった。

若い女の声で、食事はバランスよく炭水化物とたんぱく質の・・・

五分ほどアナウンスを聞いたところで、さっきの男が電話にでた。

私は秘書の今井と申します。

先ほどは、大変失礼致しました申し訳ございません。

代表の懇意にされている方とは存じませんで。。

知らぬとはいえ云々・・・

ええから、はよ正につないでくれ言うと。

はいと一言。

いよいよや、金の木との対決や。

もう勝負は始まっとる。

わしか奴、どちらかの顔にクソがなすりつけられる。

後戻りできへん、やるしかない。

ほないくで。

1 弟子

2016年02月21日
こいつは、ほんとどうしようもない奴や。

わしと知り合って三年くらいか・・・

オヤジと飯食ってる最中に、電話よこしてきた。

金ないから携帯とまりそうですと、泣きついてきたんや。

今時、携帯止まったら何も出来ん。

しかも、闇カジノで遊んでばかりで仕事もしとらん。

元は腕のいいディラーだったが。

ミイラとりがミイラちゅーやつやな・・・

そんでお決まりのパターンやな、薬覚えさせられてドボンや。

そういう奴は何言っても聞かんからな。

会ってすぐ まず 腕見せてみい言うたったわ。

意外や・・・きれいな腕しとった。

飯も食ってへん言うから。

ラーメンくわしたった。

そしたら、泣きおるんよ。

優しくしてくれるの、わしだっけだって。

あげくには弟子入り志願や。

いつもやったら、即お断りやけれど。

今は関東の話もあるしな、荷物持ちって事でOKした。

しかしさっきから、えらいこいつの携帯鳴ってるが・・・

すみません、出てもいいですか?言うから。

出んと逆に気が散ると一言。

恭は、なんかペコペコしながら 電話しとる。

ああ、恭一いう名前やから恭なんや。

しかし・・・受話器の向こう側の相手は一体誰や。

普通の話し方やけれど、威圧感がある。

不良かもしれんな・・・思ったところで電話が終わった。

誰やねん?と聞いてみたら。

名古屋の正さんですと言って、うつむいた。

わしは何も言えんかった。

正いうのは、とんでもない奴や。

現役の不良に腕折られても、ヘラヘラしとるようなキチガイやねん。

奴の恐ろしいところは、関わる人間みんなドツボにはまるところ。

不良も今は塀の向こうやしな・・・

突っ込まんでいい事に、首突っ込んでしまったんかもな。

しゃーないわ、わしボンボンやからな。